上達の指南

呉清源師の「生涯一局」その十二

(4)新布石から六合の碁へ

(寄稿連載 2013/02/26読売新聞掲載)

 「週刊碁」が昨年、130人の棋士に「尊敬する棋士・好きな棋士」をアンケートし、1位呉清源、2位藤沢秀行、3位木谷実、4位本因坊秀策、5位坂田栄男、本因坊道策、7位加藤正夫、8位岩本薫、9位本因坊秀和、10位本因坊秀栄がベストテンに選ばれました。私が光栄にも第1位。それを誇りに、98歳の老骨ながら、なお一層の精進を、と心を新たにしています。
 向井一男先生は1900年生まれで、旧布石の信奉者。私は新布石の研究を始めたばかり。「実戦図1」の黒5では、今考えればイの辺りにかかるのが最も適切だと思えます。黒7ももっぱら模様を広げていきましたが、今なら「参考図1」のように黒1とかかるでしょう。白2の下ツケなら黒9までです。
 黒11とさらに模様を広げ、良くも悪くも初志貫徹です。なお、黒11では普通は「参考図2」の黒1ですが、白2、4と構えられてしまいます。白12で冷静にロと打てば、白の悪くない碁だったでしょう。
 「実戦図2」の白30まで、▲を取られても白16を置き去りにさせ、黒が得です。本局は黒の中押し勝ちとなりました。
 新布石は、もっぱら中央を重視し、まだ未熟でした。最近、私が提唱している「21世紀の碁」は「六合(りくごう)」(天地と四方)の角度から全局的な調和を重視します。時代とともに碁も進歩せねばと思っています。
(構成・牛力力)
(おわり)

●メモ● 1934年(昭和9年)、呉師は囲碁親善使節団の一員として中国各地を訪問する。来日後、初めての帰国の旅だった。新布石はすでに中国にも伝わっており、実際に打たれていることに驚かされたという。満州国皇帝の立場にあった溥儀の前で記念対局に臨む機会もあった。
写真=前橋を訪ねた呉師(前列右から2人目)(1933年)

日本棋院春季大手合
白 四段 向井一男
黒 五段 呉清源
(昭和9年=1934年)

【実戦図1】
【参考図1】
【参考図2】
【実戦図2】