上達の指南
(1)関西の重鎮との大攻防戦
(寄稿連載 2013/05/28読売新聞掲載) おかげさまで、私はこの5月で99歳になりました。先日も弟子の林海峰さんが来られ、一緒に私の昔の碁を研究したり、実に楽しい時を過ごしました。こうした充実した生活を送れるのも、碁のおかげと思います。
久保松勝喜代先生は関西棋界の重鎮で、橋本宇太郎、前田陳爾、木谷実、村島誼紀などの最初の師匠で、これらの弟子を修業のために東京に送り出し、棋界を隆盛に導いた方なのです。
「実戦図1」は中盤の場面。黒1は大切な一手で、これで黒3と打つなら安全ですが、そうすると白1と必争点に先着されてしまいます。白2以下は気合の激突。黒9でコウになりました。白10でイと切れば、ものすごい大コウになりますが、コウ材が多く必要です。ですから白10、12とややのんびりしたコウを始めました。ところが黒15とコウ材を準備して黒17と切ってきて大決戦です。勢いとはいえ白20、黒21と最初は予想もしなかった大変化になりました。
「実戦図2」の白22はこう打つところです。「参考図」のように白1と生きるのは出入り28目ですが、左辺に黒2と打たれるのは、その後の進行でそれ以上の差になるでしょう。黒23から新しい激戦が始まりました。100手以上の応接でしたが、白は待望の右上隅の生きに回れました。
本局は全局的な大攻防戦で、白の5目半勝ちでした。印象深い碁でした。
(構成・牛力力)
●メモ● 久保松勝喜代は1894年(明治27年)、兵庫県尼崎市出身。橋本宇太郎は瀬越憲作の門下に送り出し、この縁で橋本と呉師は兄弟弟子となった。このころは新聞碁にもたびたび登場し、活躍していた時期だった。1941年(昭和16年)死去。追贈八段。その後、名誉九段を贈られた。
写真=碁盤をはさんで歓談する呉師(左)と林名誉天元(今年4月)
大手合六段決勝戦
白 六段 呉清源
黒 六段 久保松勝喜代
(1936年)