上達の指南
(2)雁金先生らしい鋭い狙い
(寄稿連載 2014/02/18読売新聞掲載) 雁金凖一先生との十番碁は2連勝の好スタートで第3局を迎えました。私はこの流れに乗りたいところだったのですが、そう容易でないのが雁金先生です。本因坊秀栄名人がまな弟子を「雁金は手が見えすぎる」と評した話は有名です。
「実戦図」の黒1は1時間4分の長考。その後の黒3が雁金先生らしい鋭い狙いを秘めた手でした。
白4で「参考図1」のように受けますと、黒2の筋が成立してきます。白3と出た後、7までは自然な流れです。黒8は当然で、これで単に10と押さえると白11、黒12に対して白Aと打たれて窮します。従って白17までは必然ですが、黒18と回られると白は目も当てられません。
黒8で「参考図2」のように1と欲張るのは、白2、4から10、12まで黒がかえって取られてしまいます。
実戦図の白4は我慢の手だったのです。
本局の中盤では互いに問題手が出ましたが、最終的には黒が終盤がっちり固めて4目勝ちとなりました。
1940年に朝刊8ページ、夕刊4ページだった読売新聞も、この対局の頃になると朝刊4ページ、夕刊2ページにまで半減。比例して囲碁欄もぐっと縮小されました。44年になると夕刊はなくなり、朝刊2ページだけのペラ時代となります。こうして囲碁欄は虫眼鏡で見なければならないほど小さくなったのであります。
(構成・牛力力)
●メモ● この対局は太平洋戦争開戦直後の12月27~29日、鎌倉で打たれた。読売記事はこう記している。「雁金氏にしろ呉氏にしろ恐らくは碁を打つ以外は何事も、己をして御国に献ずるすべを考えられなかったのではないか、と言えばいい過ぎになるだろうか」
写真=趙治勲二十五世本因坊(右)と呉師(2008年)
打ち込み十番碁第3局
白 七段 呉清源
黒 八段 雁金凖一
(1941年12月)