上達の指南
(4)先生カド番 十番碁は終局
(寄稿連載 2014/03/04読売新聞掲載) 爽やかな5月の風、「読売・海の道場」の藤花が盛んな中、雁金凖一先生との十番碁もいよいよ第5局を迎えました。私は4月末まで中国へ旅行をしており、休む暇がなかったのですが、疲れている時の手合の方が不思議といい碁が打てるものです。
「実戦図1」の白8の二間バサミは現在では基本定石ですが、この時代は一般的ではありませんでした。黒9で「参考図」の黒1と二間飛びするのもよく打たれる手ですが、この場合は白2から4と打つ手が大いに有力だと思われます。黒が5、7と応じると、白8と切る手があるのです。左上に白のシチョウ当たりがあるので、この手は成立します。以下、黒15までの分かれとなりますが、白は地も多く、悪くないでしょう。白16はAと迫るのも良いですね。
「実戦図2」の白12とはね返したのは、黒17までとなって白に分があると考えて打ちました。これは今ではごく普通の定石になっています。しかし当時は白が悪いとされていました。定石は時代とともに変化や進歩を遂げ、同じ形でも評価が逆転することさえあります。白12が悪手ではないという囲碁界の結論が出るまでに十数年がかかりました。
本局は白の中押し勝ちで、十番碁は私の4勝1敗となりました。雁金先生は打ち込みのカド番となり、この十番碁はついに打ち継がれることはありませんでした。
(構成・牛力力)
(おわり)
●メモ● 雁金と呉の十番碁はすべて、神奈川県鎌倉市腰越の「読売・海の道場」で打たれた。読売は松木立の中に対局会場を新築した。当初は簡素なものを計画していたが、次第に、控室を作り、手洗い場を設け、廊下を巡らし、と大がかりなものとなったという。
写真=作家の坂口安吾(左)と(1948年)
打ち込み十番碁第5局
白 七段 呉清源
黒 八段 雁金凖一
(1942年5月)