上達の指南

呉清源師の「生涯一局」その十五

(3)激しい攻防の末 3勝目

(寄稿連載 2014/02/25読売新聞掲載)

 折からの春雪で白く染まった鎌倉の「読売・海の道場」対局室で第4局が開始されました。ここまで私の2勝1敗です。
 雁金凖一先生との碁は、私が捨て石を使って模様を張ったところに、先生が打ち込み、シノギ勝負になるのが常でした。その点では木谷実さんとも似ています。とにかくパンチの強い碁を打たれるので、まともにぶつかるのは得策ではありません。
 「実戦図1」は中盤に差しかかったところです。白2がタイミングのいい利かしで、4、6と戦闘開始です。白10は黒イの押さえと換わってから11と動き、後に白ロの利きから12と切るコウを狙っています。
 白10を単に11とすると黒ハ、白ニ、黒ホ、白12、黒ヘ、白ト、黒10、白チ、黒リとなり白のコウ狙いがなくなります。実戦は黒11と8子を捨て、白の思惑に対抗しました。白16は雁金先生らしい工夫です。ここをヌと打てば黒にルと詰め開きされてしまいます。
 「実戦図2」です。当然ながら黒17とこちらから詰めていきます。白18に黒19は急所です。黒25で「参考図」のように逆から押さえれば、白8までとなるでしょうが、これは白の希望通り。従って黒は25から27と頑張りました。激しい攻防は続き、黒45でやっと一段落です。
 立ち上がりから激闘に次ぐ激闘で息をつく間もなく終局。幸いにも3目勝ちとなりました。
(構成・牛力力)

●メモ● 雁金八段の碁について瀬越憲作七段(当時)が語っている。「辛抱の碁であって、凌(しの)ぎはまた至って名手である。それに頗(すこぶ)る読みが強い。初め華やかで終わり大したこともないのと、初め処女の如(ごと)く後ジリジリ激しくなるものとあるが、雁金氏の碁風は実に後者であって」
写真=山下敬吾九段(前列左)、依田紀基九段(同右から2人目)らに囲まれて(2009年)

打ち込み十番碁第4局
白 八段 雁金凖一
黒 七段 呉清源
(1942年2月)

【実戦図1】
【実戦図2】
【参考図】