上達の指南
(4)打ち回して白番8目勝ち
(寄稿連載 2014/07/22読売新聞掲載) この第4局は京都の南禅寺を対局場として行われました。璽光尊(じこうそん)は急に十番碁に関心を失ってしまいました。期待したほど宣伝効果が得られなかったためでしょうか、私の勝利のために祈ることもなくなり、十番碁の対局日程の都合も考慮に入れなくなりました。
「実戦図1」の白2、4と久しぶりに対角線上に三々を打ちました。黒19では40、また単に25が良かったでしょう。白34で「参考図1」のように打つのは悪く、実戦とは大差があります。黒35と白36は、封鎖と突破の気合が激突して火花が散りました。白48と急所に一撃しました。
「実戦図2」の黒61までは必然ともいうべき進行でした。白62は狙いの筋です。黒65を先に利かせたのが巧妙で、単に67と打つのとでは一手の相違があります。黒71はさすがです。白イと打っても黒75、白79、黒73と渡られてしまいます。黒85は、4子がそのままでも取れていますので、114の大場に打ちたいところでした。白98では右上にロとつけ、黒ハ、白ニと打つべきでした。黒103は白の勢いに押されています。ここは「参考図2」の1が冷静で、以下、白12までですが、黒はこの4子なら捨てても未練はありません。右辺の黒地は実戦とは大きな違いがあります。
結局、白の8目勝ちで、白が打ち回した一局でした。
(構成・牛力力)
(おわり)
●メモ● この南禅寺対局について、当時の観戦記は記す。「一日まえに橋本八段宝塚からきて機気を休めているところに、夜になり呉氏も着到、その夜は岡崎の宿に彼我同舟の夢に入り、(中略)禅林の僧が心づけの抹茶を両棋士しずかに啜ってのち、白番の呉氏が上座に坐って始まった」
写真=くつろぐ呉(左)と橋本
打ち込み十番碁第4局
白 八段 呉清源
黒 八段 橋本宇太郎
(1946年)