上達の指南
(1)橋本八段を打ち込む
(寄稿連載 2014/10/28読売新聞掲載) 橋本宇太郎八段との戦後初の十番碁は第5局まで私の4勝1敗でした。第6局以降は体調を崩していた橋本さんの回復を待つということで当分延期となりましたが、私が当時信仰していた璽宇(じう)の教祖、璽光尊(じこうそん)の都合で対局日程が確定できなかったというのが実際のところです。
結局、第6局は10か月後になりました。橋本さんは第6局のカド番をしのぎ、私たちは引き続き同じ場所で第7局を迎えました。
「実戦図」、白14には黒15とすかさず入らなければなりません。白は16と飛ぶくらいでしょうから、調子で黒17と打てます。黒15で「参考図1」の黒1と打つと、白2と頑張られます。
白18の詰めは厳しい手でした。白18で「参考図2」の白1ならば▲を取ることはできますが、黒は2のコスミツケを先手で利かせてから4に先着できるので、全体では黒が先行する展開です。
黒19の押し上げは当然のことで、白20もこの一手でしょう。黒21と逃げたのは、両方の白がまだ生きていないのでそれを分断したわけです。
戦いはこれからですが、どこが重要か、どこを急ぐべきか、事の軽重と緩急を見極めることが何よりも大事です。
本局は黒の中押し勝ちでした。第8局にも勝って私の6勝2敗となり、橋本八段を打ち込みます。後の2局は向先相先で、私の1持碁1敗で終了しました。
(構成・牛力力)
●メモ● 橋本八段が打ち込まれて迎えた第9局。観戦記はこう記す。「冷厳な“打ち込み制”の鉄則下に、以後は呉氏と橋本氏とこの二人の相対に関する限り先相先の一段差の格付けとなった。妥協と寛容のなにものをも許されない勝負道のきびしさが歯をむいているのだ」
写真=呉(左)と橋本(1950年)
打ち込み十番碁第7局
白 八段 橋本宇太郎
黒 八段 呉清源
(1947年7月)