上達の指南
(3)独特な「豆まき碁」高評価
(寄稿連載 2014/11/11読売新聞掲載) 岩本薫さんは本因坊2連覇によって1948年、八段に推挙されました。その棋風は「豆まき碁」とも呼ばれ、ひょうひょうとした碁で、独特なものとして高く評価されていました。
淡々としているとよく言われますが、それは人柄のことであって、碁は粘り強く、この十番碁もコウ争いに次ぐコウ争いでした。今回は第4局を検討してみましょう。
「実戦図」の黒3は中途半端でした。
「参考図1」の黒1と詰めた方が良かったと思います。白2のブツカリなら、黒3、5と強気に押さえていきます。白2でAなら黒Bと調子よく出られます。
白4のコスミツケは厳しい攻めのようですが、敗着と言っても過言ではありません。
「参考図2」の白1の開き詰めが▲をとがめる好手でした。黒4から12まで安定はしますが、白13と急所に打たれ、以下、19までのようになれば白が悪くありません。
実戦図の黒5のツケから7のフクラミが好手で、9からのコウは一本道と言えましょう。黒15の当てが自慢のそばコウで、一方の白には適当なコウ材が見あたりません。白18と隅につけてきましたが、黒19とコウを解消して、早くも黒が打ちやすい碁になりました。
本局は黒の中押し勝ちとなり、この十番碁は私の3勝1敗となりました。
(構成・牛力力)
●メモ● この第4局は東京世田谷で3日を費やして打たれた。対局会場には文壇の囲碁ファン、豊島与志雄、坂口安吾、火野葦平らが観戦に訪れていた。観戦記が伝える。「諸豪、感に堪えたように観戦しているが、いずれも分かったような分からんような顔をしている」
写真=十番碁第4局で棋譜を確認する呉(左)
打ち込み十番碁第4局
白 八段 岩本薫
黒 八段 呉清源
(1948年9月)