上達の指南

呉清源師の「生涯一局」その二

(1)木谷さんに白番で勝つ

(寄稿連載 2009/07/07読売新聞掲載)

 5月に95歳になりました。台湾主催の国際棋戦の審判長を務めるため、3月にシンガポールへ、4月には台湾へ行ってきました。まだまだ元気です。
 かつては大手合が最重要棋戦でした。春8局、秋8局対局し、その成績で昇段が決められました。段位の差で手合割りも違いました。
 本局は昭和7年の大手合です。相手の木谷さんにはよく負かされていました。私が四段に昇段し、初めて白番を持った一局でした。よほど頑張らねばと思いました。
 局面は、上辺での折衝が続いています。「実戦図」の白2で、「参考図1」の白1とケイマに頑張るのは、黒2に詰められ、さらに後にAからの切断を狙われます。黒5でいきなり「参考図2」の黒1と打ち込むのは、白2と左上の黒の一団が攻められるので無理です。
 白6の伸びは緩着でした。「参考図3」のように白1から決めて、左辺に白5と回るべきでした。つまり、「参考図4」の黒1とすかさず入られていたら、白は対応に困ったと思います。冷や汗ものでした。
 結局、白12に回ることができ、さらに白16にも展開できて、ひとまず安心しました。
 本局は白番で6目勝つことができ、うれしいのひと言でした。なお、この春季大手合は8局全勝し、優勝一等と全勝記念賞をいただきました。いまでも忘れられません。
(構成・牛力力)

●メモ● 大手合はコミなしで、同じ段位なら互い先、一段差なら下手が3局セットで黒、白、黒、二段差なら常先の手合割りだった。勝敗と段位、手合割りによってポイントが決まっており、一定の成績を挙げると昇段できた。昇段規定がタイトル戦の成績によることに改定され、2003年に廃止された。
写真=盟友・木谷実(右)との対局

日本棋院春季大手合6回戦
白:四段・呉清源 黒:五段・木谷実
(1932年4月)

【実戦図1】
【参考図1】
【参考図2】
【参考図3】
【参考図4】