上達の指南
(4)黒番無敵の藤沢庫之助
(寄稿連載 2009/12/01読売新聞掲載) 藤沢庫之助さんとの十番碁は、私が八段、藤沢さんが六段の二段差で、手合は藤沢さんの定先でした。その頃の藤沢さんは黒番無敵と言われており、地味ながら確実な棋風で、黒を持つと白に付け入るすきを与えないので、私としては白番の十番碁は相当きついものでした。
「実戦譜」の白1に黒18なら白4で楽ですが……。また白3に対し黒5、白4となる進行なら、お互いに小康状態で、この方が黒は良かったかもしれません。白5は気合のハネ出しでした。白5で10と守っているようでは、黒5で白は息切れです。重苦しい姿で、まだ眼もありません。白11のノゾキは手順を尽くしています。「参考図1」の白1と打ってから3とのぞくのは手順が悪く、黒2から4、6で両方楽にしてしまいます。その点、「参考図2」の黒1のツギなら、白2、4と打てるので、大いに安心できます。
以降、「実戦譜」の白25まで華々しい振り替わりになりましたが、上辺の白は「参考図3」の白1、3と動く余地がまだあります。黒4で「参考図4」のように黒1と打つと、白2、4と渡れます。
本局は白の中押し勝ちでしたが、この十番碁は私の4勝6敗でした。藤沢さんの定先で打ち分けに近い成績ですから、健闘と言えましょう。その後、藤沢さんとはさらに2回も打ち込み十番碁を戦いました。
(構成・牛力力)
(おわり)
●メモ● 藤沢庫之助は1919年(大正8年)、横浜市生まれ。年齢は逆転するが、藤沢秀行名誉棋聖は叔父にあたる。33年入段、49年九段。呉とは、戦前戦後にかけて、3次にわたって十番碁を争い、計26局、最も多く十番碁を打った。第3次は1勝5敗で定先まで打ち込まれ、その後、朋斎と名乗る。
写真=藤沢庫之助(右)との十番碁(1953年)
打ち込み十番碁第2局
白:八段・呉清源 黒:六段・藤沢庫之助
(1943年)