上達の指南

呉清源師の「生涯一局」その五

(1)橋本さんと再び十番碁

(寄稿連載 2010/06/29読売新聞掲載)

 橋本宇太郎さんは私の兄弟子で、当時、岩本薫さんから本因坊位を奪回し、他方、日本棋院から関西棋院を独立させるべく大奮闘中でした。
 橋本さんとは46~48年にかけて1回目の十番碁を打っていますが、それから2年たち、本因坊に復帰したこともあって、2回目の十番碁が企画されました。1回目は8局目で打ち込み、結果は私の6勝3敗1持碁でした。ですから今回の手合いは一段差の先相先で始められました。対局場は箱根の強羅。セミやハト、ウグイスの声などがにぎやかだったのを思い出します。
 本局はちょうど60年前の対局で、コミなしのため、「実戦図」の黒1、3と守るような手を選択されたのでしょうが、今なら「参考図1」の黒1と積極的な打ち方をするでしょう。これに対し、白2、4とはって、白6の開きを急がなければなりません。白4で7と飛ぶなら、黒Aと開き詰めます。
 なお、「実戦図」の黒3に白4と引いても悪くありませんが、「参考図2」の白1のマクリの方が勝りました。白11、13と打って、黒の一団を攻める可能性が出てきますから――。
 「実戦図」の白6から黒11までの交換は、白12を急ぐためです。白14と控えめに開いたのは、黒Aのノゾキに用心したのです。白18に黒19なら白20で安心で、白の好スタートと言えましょう。
 本局は白7目勝ちとなり、この十番碁の初戦を飾ることができました。
(構成・牛力力)

●メモ● 橋本は第2期本因坊となり、45年、岩本の挑戦を受けた。当時は六番勝負で、3勝3敗となった後、再決勝戦三番勝負が行われ、岩本が2連勝して本因坊を奪取。そして第5期、橋本が挑戦者となり、4連勝でタイトル奪還を果たす。このときから挑戦手合いは七番勝負となった。
写真=第2次十番碁第1局に臨む呉(奥)と橋本(1950年)

第2次打ち込み十番碁第1局
白:九段・呉清源
黒:本因坊・橋本宇太郎
(1950年7月)

【実戦図】
【参考図1】
【参考図2】 5(3の下)