上達の指南
(4)2人とも見損じた開幕戦
(寄稿連載 2010/07/20読売新聞掲載) 私が打った「打ち込み十番碁」で、最も注目されたのがこの十番碁でしょう。
当時、2人しかいない九段の対決であり、読売新聞社は一面の社告で大々的に宣伝しました。契約が成立するまで2年。難関は持ち時間で、私は10時間を、藤沢庫之助さんは13時間を主張し、結局、私が全面譲歩して開幕しました。
以前、藤沢さんの定先で十番碁を打っているので、第2次といえますが、今回は互先の手合でした。
「実戦図」は終局直前、白4までで黒が一手足らず投了しました。ところが私も、藤沢さんも見損じていたのです。「参考図1」の黒1と直ちに攻め合いにいけば、「参考図2」の黒17まで一手寄せコウで、白に不利でした。
実は終局直後、記録係の塩入逸造四段に指摘され、2人ともがく然としたのですが、「参考図1」の黒7と中から詰めるのが妙手で、私たちはこれをAと取る手順で読んでいたのです。
もっとも「参考図2」の白12の時点で、残り時間は黒13分に対して白は6時間近く残していましたので、白はAと押して、まだ戦っていたでしょう。
注目の開幕戦だっただけに、「争碁に名局なし」の格言通り、期待に反したあっけない1局で、いろいろ取りざたされもしました。
私にとってみれば、運がついていた初戦だったといえましょう。
(構成・牛力力)
(おわり)
●メモ● この対局は栃木県の日光山輪王寺「聖跡の間」を舞台に、10月20~22日の3日間で打たれた。読売社告は7月に掲載され、「全国の囲碁ファンが久しい間熱望してやまなかったもの」とした。第2次十番碁は、第9局で呉が6勝2敗1持碁として打ち込み、第10局は先相先の手合となった。
写真=第1局の対局前日、握手を交わす呉(右)と藤沢
第2次打ち込み十番碁第1局
白:九段・呉清源 黒:九段・藤沢庫之助
(1951年)