上達の指南
(1)藤沢九段のマネ碁に勝つ
(寄稿連載 2010/10/19読売新聞掲載) 1951年10月から53年3月にかけて、藤沢庫之助九段とは、読売新聞「打ち込み十番碁」と毎日新聞「決戦四番碁」で計20局対局しました。よく打ったものです。
「決戦四番碁」は私が3連勝し、本局を迎えました。「十番碁」はコミなしなので、マネをしてもつまりませんが、「四番碁」は先番4目半のコミがあります。藤沢さんはこれまでマネ碁をよく打って成功しており、本局でも打ってきました。
「実戦図1」の黒45までとなって、白はマネしにくくなりました。といって、白42でイの天元と急いでも黒ロに打たれてしまいます。その点、タイミングよく天王山の黒45を占めて、黒が打ちやすい碁になりました。
「実戦図2」の白46の殴り込みは藤沢さん得意の打ち方です。攻防戦が始まりましたが、黒53と分断しては白が苦戦です。黒61の様子見に、白62は白46の一子と連絡するために仕方ありません。
黒67が本局のポイントです。この手で「参考図」の黒1のように普通に打ったりすると、碁が怪しくなりそうです。以下、黒79となって、黒は左辺を荒らし優勢になりました。
本局はその後、白が無理をして大石を取られて、115手まで黒の中押し勝ちでした。
私はマネ碁の是非を云々(うんぬん)するつもりはありません。ひとつの戦法とその対策の一例として本局をご覧になって、楽しんでいただければと思うだけです。
(構成・牛力力)
●メモ● 呉師は10月6日、神奈川県秦野市で行われた名人戦第4局の1日目、対局会場を訪れた。検討では、衰えぬ感性を見せ、林海峰立会人らをうならせた。打ち掛けの後、井山裕太名人、高尾紳路九段の両対局者に「囲碁はいい。一生楽しむことができる」と語りかけた。
写真=対局の合間に散策する呉師(左)と藤沢九段(1951年10月)
決戦四番碁第4局
白:九段・藤沢庫之助
黒:九段・呉清源
(1952年2月)