上達の指南
(2)敬愛する「火の玉宇太郎」
(寄稿連載 2011/04/05読売新聞掲載) 私はこの5月で97歳になります。私が碁を覚えたのは7歳の頃。それから現在までなんと90年間も囲碁と関わり、対局や研究にと充実した人生を送れ、本当に感無量の思いです。
橋本宇太郎さんは私より7歳年長ですが、瀬越憲作門下の兄弟子で、先生の代理として、私の入門試験碁を北京まで来られて打ってくださった先輩です。
来日後も種々相談にのってくださり、また戦後、初の十番碁も打っていただきました。私の最も敬愛する先輩でした。
本局は、橋本さんの王座戦の優勝を機に日本経済新聞社が企画した三番碁の第1局です。
「実戦図」の白1と封鎖し、外勢を築きました。これに対して、黒2の後の黒4が好手。白4子を取り込み、上辺の黒の一団が生還しました。
つまり、「参考図1」の白1には黒2が用意してあり、白は脱出できません。
また「参考図2」の白1の伸びには黒2がぴったりです。白3は仕方なく、黒4までとなって、白は抵抗できません。
「実戦図」に戻り、白7は右下隅を中心に新天地を開拓しようとの意図で、迫力を感じます。
黒8はイの切りを防いでおり、白7に匹敵する大きな一手です。
白13は「火の玉宇太郎」の闘志を放っています。となれば、黒14と打ち込んで戦い再開です。
本局は黒中押し勝ちとなり、三番碁は2勝1敗で私が勝ちました。
(構成・牛力力)
●メモ● 橋本が王座を獲得したのは第1期。当時は16人によるトーナメント戦で前田陳爾七段との決勝一番勝負を制した。その後、決勝三番勝負制となり、橋本は第3期に島村利博八段に2―1、第4期に坂田栄男九段に2―0で勝って優勝。通算3期、王座のタイトルを保持した。
写真=呉(左)と語り合う橋本(1950年)
三番碁第1局
白 八段・橋本宇太郎
黒 九段・呉清源
(1953年12月)