上達の指南
(4)八局で坂田を打ち込む
(寄稿連載 2011/04/19読売新聞掲載) 1953年11月から打ち始めた坂田栄男八段との十番碁は、2勝2敗から私が3連勝し、第7局までで5勝2敗、この第8局が坂田さんのカド番になりました。
「実戦図」の白1の肩ツキでは、「参考図1」のように、早く下辺に戻れば息の長い碁になったでしょう。
そういう意味では、「実戦図」の黒10も「参考図2」の黒1と下辺を打ち続けるべきでした。この黒1は黒8でもよかったのですが……。
攻めるチャンスを逃したために、白15から17と治まり形にされてしまいました。
しかし、その後の白19は急所を外しています。「参考図3」の白1と、この一団を安心させておくべきでした。
確かに白19から21は筋ですが、黒32と大切なところに回られてしまいました。ここは実利も大きいですが、なによりも白の根拠に関わります。
お互いがこの急所を何度も外してきましたが、運よく黒に手が回り、優勢を確立したといえます。本局は結局、黒の7目勝ちとなりました。
これで私の6勝2敗となり、四番勝ち越しの「打ち込み」となったので、この十番碁は約定により終了しました。
坂田さんという強敵を迎えて、私自身、心を引き締めて、気力・体力の維持に随分と気を使いましたが、運がよかったとも言えましょう。
(構成・牛力力)
(おわり)
●メモ● この第8局は岩手県・花巻温泉で打たれた。対局前日、二人は盛岡で行われた歓迎囲碁大会で大勢のファンに囲まれ、その後、小岩井農場を見学し、搾りたての牛乳に舌鼓を打った。呉は馬に乗ることを希望したが、あいにく適当な馬がおらず、これは断念したという。
写真=十番碁第1局で初手を打つ坂田(左)(1953年11月)
打ち込み十番碁第8局
白 八段・坂田栄男
黒 九段・呉清源
(1954年6月)