上達の指南

呉清源師の「生涯一局」その八

(1)二間開きの方が良かった

(寄稿連載 2011/07/26読売新聞掲載)

 高川格さんは私より1歳年下でしたが、本因坊位を9連覇した名棋士で、私の最後の十番碁の相手でもありました。大局観の正確さやバランスの良さは定評があり、「流水不争先(流水は先を争わず)」の棋風でしたが、碁が悪いとみるとすごい力を出すこともありました。
 この十番碁は、私の九段昇段テストとされた番碁でした。当時の東西の精鋭十棋士と対局しました。六段とは定先、七段とは先相先の手割りで、私は黒番2局、白番が8局でしたが、本局は数少ない黒番での対局でした。
 高川さんは白番だったこともあり、対局場へは4、5日前から泊まり込んで慎重に作戦方針を立てられたそうです。
 「実戦図」では、黒11と三間に開きましたが、いま考えると、「参考図1」の黒1と二間開きの方が適切ではないかと思います。白2は黒Aを未然に防ぐためですが、この時、黒はあいさつせずに3と展開するのがポイントです。黒3でBと受けたりすると、白C、黒4に、白Dと先着されてしまいます。
 黒11の三間開きですと、白12で、「参考図2」の1から3と足早に先行することも可能だったのではないかと思います。黒4と行っても、いずれ黒10と戻らなければなりませんから、白は怖くありません。
 本局は私の中押し勝ちでした。十番碁は私の8勝1敗1持碁で、その後、私は九段になりました。
(構成・牛力力)

●メモ● この十番碁は1949年7月から翌年2月にかけて打たれた。相手は、長谷川章七段、梶原武雄六段、窪内秀知六段、高川格七段、細川千仭七段、宮下秀洋六段、林有太郎七段、前田陳爾七段、炭野武司六段、坂田栄男七段。窪内六段が黒番4目勝ち、炭野六段が持碁。
写真=高川(左)との対局(1956年4月)

呉・高段者総当たり十番碁
白 七段・高川格
黒 八段・呉清源
(1949年9月)

【実戦図】
【参考図1】
【参考図2】