上達の指南

呉清源師の「生涯一局」その九

(1)高川本因坊を打ち込む

(寄稿連載 2011/11/01読売新聞掲載)

 この十番碁は第1局から私が3連勝し、第4局はカド番になった高川さんがしのぎ、次に私が勝って、第6局の再度のカド番を高川さんがしのぐ展開となりました。この年4月に行われた第7局を私が勝って、高川さんはまたもカド番となりましたが、この第8局まで5か月かかりました。もっともその間に、高川さんは本因坊5連覇を果たされ、それだけに本局にかける意気込みを感じました。
 高川さんの初手はいつも星ですが、本局は「実戦図1」の黒1と珍しく小目でした。
 白24は、定石では「参考図」の白1のポン抜きですが、黒2と締まられ、白3には黒4のツケが好手。黒8まで先手で頭を出され10の好点に回られると、黒の下辺の勢力は広大で、右辺の白よりずっと大きい。ですから私はあえて手を抜いたのです。
 「実戦図2」の黒35は待望の伸びですが、白46から56まで先手で生き、58と回って白が成功したと思いました。
 本局は私が勝って、高川さんを先相先に打ち込みました。
 17年間続いた「打ち込み十番碁」は、この高川戦を最後として幕を閉じました。当時の一流棋士すべてに勝って、私との手合割を一段差の先相先か、二段差の定先としたことは私の誇りであり、「十番碁」の終了には、ほっとすると同時に一抹の寂しさもあり、感無量のものがありました。
(構成・牛力力)

●メモ● この十番碁は第10局まで打たれた。第9局、第10局は先相先の手合。いずれも高川の先番で、高川は両局に勝ち、意地を見せた。呉と「打ち込み十番碁」を戦ったのは、木谷実、雁金凖一、藤沢庫之助(第3次まで)、橋本宇太郎(第2次まで)、岩本薫、坂田栄男、そして高川である。
写真=十番碁第7局での呉(右)と高川(1956年4月)

打ち込み十番碁第8局
白 九段 呉清源
黒 本因坊 高川格
(1956年9月)

【実戦図1】
【参考図】
【実戦図2】