上達の指南
(3)復活木谷と13年ぶり対局
(寄稿連載 2011/11/15読売新聞掲載) 木谷実さんとは1944年以来、実に13年ぶりの対局でした。木谷さんは54年に病気で倒れ、2年ほど対局から遠ざかっていましたが、復帰するや否や、朝日新聞社主催の第2期最高位戦で坂田栄男さんを破ってタイトルを取り、東京新聞社主催の囲碁選手権戦でも優勝し、56年には九段に昇段しています。私は昔から木谷さんとは親しくしていたので、「木谷復活」を心からうれしく思いました。
「実戦図」の黒7は、木谷さん独特の手法といえます。
要するに、「参考図1」の白2とナダレに打たれるのを拒否しているのです。
白8、黒9は、白9なら黒8という見合いのところです。
白12と右辺に打ちましたが、いま考えると、「参考図2」の白1が勝っていたと思います。となれば、黒2でしょう。ここを白に打たれては、Aを狙われてしまいますから。その後、白3と大斜にかけ、以下、白19までのいわゆる大斜定石となれば、実戦より打ちやすかったと思えるのです。
白12、14と右辺に行ったことによって、白30が好点となりましたが、結局、黒31と広い方に回られてしまいました。
本局は中盤で、左上に大コウが生じ、難解のうえに難解、運良く黒の大石を取って、白中押し勝ちとなりました。
木谷さんとは戦後初の対局で、懐かしく思い出される一局です。
(構成・牛力力)
●メモ● 木谷九段は1954年に倒れた後、2年間、療養生活を送った。復活後の活躍はめざましく、第3期最高位も防衛に成功、59年には第14期本因坊戦で高川格本因坊に挑戦している。64年に再び体調を崩し、対局から遠ざかった。74年、東京・四谷から神奈川・平塚に戻り、翌年、亡くなった。66歳。
写真=日本最強決定戦での呉師(中央)と木谷九段(1958年)
第1期日本最強決定戦
白 九段 呉清源
黒 九段 木谷実
(1957年4月)