上達の指南

羽根直樹棋聖の「七番勝負この局面」

(2)自然体で臨めた最終局

(寄稿連載 2005/10/17読売新聞掲載)

 山下敬吾棋聖に初めて挑戦した、第28期棋聖戦七番勝負は、私が3連勝した後、3連敗を喫し最終第7局にもつれ込みました。
 私には大変悪い流れとなり、誰が見ても山下有利と思えたでしょう。しかし、これで私は気が楽になり、逆に山下さんは意識したことでしょう。
 いよいよ最終局を迎えましたが、あまり「第7局」を意識していませんでした。元来私は鈍感なタイプなのでしょうか、ピリピリした記憶はありませんでした。ほとんど気にせず自然体で臨めました。

 【実戦図】 私の黒番で、盤面10目くらいよさそうな形勢でした。ここで黒1、3とハネ下がったのがドラマの始まりでした。白4のふくらみに黒5と取りに行くことにしましたが、実はもっと簡単に取れると思っていたのです。
 実戦のように白を殺すのがこんなに際どいなら、取りに行く道は選びませんでした。また、第7局を意識していたら、取りに行けなかったでしょう。
 白6に黒7と眼を取り、白8に黒9から13と並んで、白死を読み切りました。
 実は、黒3の下がりでは、
 【1図】 黒1とついでいて問題はなかったのです。黒1とイでは、3分の1目の差しかないのです。
これなら白は2と生きるしかなく、黒3から5、7と囲って黒勝ちでした。
 なお、実戦譜の黒5で、
 【2図】 黒1の押さえは白2に黒3、5と囲いますが、白6、10の切りから12にツケ越されると大変味が悪いのです。いや、味が悪いどころか白16の切りで黒つぶれです。
 最後に見せ場を作ってしまいましたが、本当は坦々(たんたん)と勝つ方がよいのでしょうね。

 最終局を勝って、うれしいというよりはホッとしたというのが正直な気持ちでした。

【実戦図】
【1図】
【2図】