上達の指南
(2)互角を目指す自信の表れ
(寄稿連載 2005/01/23読売新聞掲載) 依田紀基碁聖が「碁でたくさん勝つなどということはあり得ない」と話したことがあります。私も同感。プロ同士はもちろん、アマチュアでも実力が伯仲していれば、「たくさん勝つ」のは相手が悪い手を打ったときに限ります。
「少しだけ勝てばよい」という考え方は、自信の表れでもあります。裏を返すと、たくさん勝ちたいと思うのは、不安やあせりからくる自信のなさの表れかもしれません。
さて、先週からお話ししている二間開きは、急にたくさん地が増えるという性質の手ではありません。リードしようという意味合いは薄く、互角を目指す打ち方。地味ながら、堅実で自信に満ちた手だといえるでしょう。
今週は、布石でも特に早い段階で打たれる、有力な二間開きをご紹介します。
【1図】 黒2の局面で、白からはA、B、あるいは手抜きも考えられますが、白3も最善と思われる手のうちの一つです。30年ほど前までは、黒C、白Dとなり白が損だと言われていましたが、今では逆に白を強くして黒Cがよくないと考えられています。黒Cが好手になるのは、△が黒でEの詰めから攻めを狙える場合です。
【2図】 白8は、韓国の棋士が打ち始めた二間開き。AやBなどいろいろ考えられるところですが、白8は、簡明かつ最善と思われる一手の一つです。白6の石の安定をはかりながら、右下の黒模様の広がりを防いでいます。
【3図】 この局面で、白1は意外に感じるかもしれません。AからEまで目につく大場はたくさんあります。けれども白1は、2図同様、下辺を安定させながら右下の黒模様の広がりを防いだ有力な手なのです。A~Eに勝るとも劣らぬ最大級の大場です。
●メモ● 「最近は、1歳半になる息子の遊び相手に忙しい毎日です」と橋本九段は相好を崩す。近著「した手の心構え」(日本棋院)は置き碁を主な題材とし、アマ初段から五段ぐらいを対象に、した手の考え方を明快に解説している。