上達の指南
(1)「富士山」は作らせない
(寄稿連載 2011/04/26読売新聞掲載) 碁は基本的に戦いですから、常に反発の精神を持っていることが肝心です。特に置き碁では、うわ手の言いなりに陥りやすくなりがちです。
私がアマチュアの皆さんと打った指導碁から、具体的な事例を取り上げます。
【テーマ図】 6子局です。
白1のカカリから3の開きに、黒4の小ゲイマは堅実そうです。白5、7のカカリにも黒6、8と全て小ゲイマに受け、白9の構えまで。何の変哲もない進行のようですが、白の言いなりで、白15で早くも碁にされている雰囲気です。
【1図】 左下は相手せず、思い切って黒1と大場を占めてみます。白2とかかれば、黒3と天元を占めるのが面白い。
白4の両ガカリは当然ですが、黒5から7と飛んで簡明この上ありません。黒A、Bの大きな手も残っており、黒打ちやすい布石といってよいでしょう。テーマ図の白9までの構えは「富士山」と呼ばれ、6子局において、この理想形を許すのは問題です。
【2図】 左上のカカリには、黒1と反発の精神を発揮すべきです。白2の高い両ガカリには黒3、5のツケ伸びから9、11と押し切って、雄大に進めたい。
この形は、後に黒A、白B、黒Cと手を戻すのがよく、ここまで打てればベストです。
【3図】 白2の低い両ガカリには、黒3のコスミから7の飛びが紛れのない形で、黒1と連係して中央を圧倒しています。
●メモ● 上村九段は大のスポーツ観戦好き。特にマラソンや駅伝には目がない。マラソンのテレビ放送は2時間以上見ていても飽きないという。選手が手を抜くことなく、ひたすらに戦っている姿にひかれる。「碁と同じく長い戦いに共感を覚えるものがあります」