上達の指南

茅野直彦九段の「急場の基本」

(1)逃した急場の傷は大きい

(寄稿連載 2006/04/10読売新聞掲載)

 「大場より急場」の格言があります。読んで字のごとく、大きな場所より急を要する場所が肝要、ということです。大場は見つけやすいのですが、急場は見逃しがちです。
 今回より急場の基本型と、私の実戦からプロの急場について学んでいただきます。

 【テーマ図・黒番】 模範的な布石で、まだ12手しか進行していませんが、早くも黒から急場があります。さて、どこを急ぐでしょうか。

 【1図】 黒1と詰めるのが急場の一手です。この局面に限らず、△のケイマは1と詰められるのがアキレス腱(けん)なのです。
 これに対し、白は2のコスミツケから4と下がるくらいですから、そこで黒5と詰めるのが大場です。
 黒は急場と大場の両方を打つことができました。
 なお、白2のコスミツケがつらいと見て、イと打ち込むのは黒ロのコスミから白ハに黒ニと飛ばれ、白無理です。

 【2図】 ▲のツメに対して白が手を抜き、白1と大場を占めたらどうなるでしょうか。この対策も考えておかなければなりません。
 白の手抜きには、黒2のコスミツケが急所になります。白は3と引くよりありませんから、黒4、6と白の根拠を奪います。白は7とこすむくらいでしょうから、黒8のケイマが好形となります。
 白は1の大場を占めても、黒2以下8までいじめられるのでは面白くありません。

 【3図】 黒1の詰めは文字どおりの大場で、白イの詰めとの差は大きいです。しかし、急場を逃した罪は重く、白4の打ち込みに回られます。黒5のツケに、白6の開きが絶好の一手となります。
 次いで、黒は7と備えるくらいですから、白8、黒9を利かされ、黒1に先着した価値は大幅に減っています。

●メモ● 1937年7月、千葉県生まれ。53年入段、83年九段。70年第7期プロ十傑戦8位。75年第31期本因坊リーグ入り。78年第3期棋聖戦八段戦優勝。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】