上達の指南

茅野直彦九段の「急場の基本」

(4)模様広げて急場を逸す

(寄稿連載 2006/05/01読売新聞掲載)

 最終回は、第31期本因坊戦リーグの対武宮正樹八段(当時)戦です。
 この年、私は2度目の本因坊戦リーグ入りでしたが、初戦で武宮さんと当たり、半目負けを喫しました。
 武宮さんは、このあと勝ち続け6勝1敗で同率決戦の末、挑戦者となり、6連覇を目指した石田秀芳本因坊を4勝1敗で下して、初の本因坊位に就きました。まさしく、私との半目勝ちが本因坊への第一歩となったのです。

 【テーマ図・黒番】 私の黒番で、白20までとなったところです。ここで黒はどの方面が急場でしょうか。私は急場を外して、苦しい碁にしました。

 【1図】 私は黒1のカカリから3と飛びましたが、白4とカケられ黒5に白6の詰めが好点で、弱りました。
 次に白イで黒は眼がなくなり、逆に黒からはよい手がありません。なお、黒3でロは白ハとはさまれ、黒1、白2の交換が黒の負担になってきます。
 実は、黒1、3と左辺を広げたのは、相手が武宮さんということを意識したものです。逆に模様を広げて打ってみよう、ということで黒1、3でしたが、みごとに急場を逸しました。
 もうお分かりと思いますが、急場は下辺でした。

 【2図】 黒1のケイマが絶好の急場の一手でした。白は2とケイマするくらいでしょうから、黒はテーマ図の黒イと一間に構えて堂々の布石でした。
 また、黒1のケイマからは次に黒イのケイマが利くのが大きく、さらに白が手を抜くと黒ロが厳しくなります。

 【3図】 下辺が急場とはいっても、黒1の押しから3とはねるのは適切ではありません。白2、4とハネのびられて、せっかくの▲ハサミが薄くなります。(おわり)

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】