上達の指南
(3)下辺の急場逃し苦戦に
(寄稿連載 2006/04/24読売新聞掲載) 今回からプロの碁における「急場」を取り上げます。
杉内雅男九段との一局ですが、昭和33年、杉内八段(当時)対茅野四段(同)の対局です。「碁の神様」の異名を持つ杉内先生は、2度目の本因坊戦挑戦をした打ち盛りの30代後半。私はハタチごろです。
【テーマ図・黒番】 私の黒番で、白12のヒラキまで穏やかな布石です。
ここで黒の急場は、上辺か下辺ですが、私は急場を逸して苦しくしました。さて、どちらが急場でしょうか?
【1図】 私は黒1のハサミから3と開きましたが、これは気のない手でした。ここは急場ではなく大場なのです。白4のハサミから6のトビが絶好点で、黒7のトビに白8のコスミが好手でした。
次いで、黒9とツケて封鎖を狙いましたが、白10から14、そして16のハサミツケが巧手で参りました。
今から見ると未熟ですが、実は黒3に続いて白イ黒ロ白ハを期待し、先手を取れると思っていたのです。
もうお分かりのことと思いますが、この局面での急場は下辺でした。では、どう打てばよかったでしょうか。
【2図】 黒1のヒラキが文字どおりの急場でした。黒1のヒラキと前図の白4ハサミの図を比べてみると、その差は歴然としています。
白は2と開くくらいでしょうから、黒3のコスミツケから白10のカケツギまでを決め、それから黒イのハサミに回ってよかったのです。
白2でイと二間に開くのは気のない手ですし、白ロとこすむのは黒ハのヒラキが絶好点になり白つらいでしょう。
なお、黒1のヒラキで3のコスミツケは急ぎすぎです。白ニ黒4白ホ黒ヘとこすんだとき、白トのハサミに回られては元も子もありません。