上達の指南

金秀俊八段の「3子局の序盤」

(3)相手の勢力に謙虚に対処

(寄稿連載 2011/07/12読売新聞掲載)

 石の強弱を見分ける判断力が大切という話を前回しましたが、それは自分が強い立場にある場合だけではなく、相手の方が強いケースでも当てはまります。相手の強い石に対してどう対処するか、について考えてみましょう。

 【テーマ図】 黒16の詰めは好手です。白17に黒18、20とツケ伸びたのも、上辺の模様を盛り上げる立派な構想です。そして問題は、白27となった場面での次の一手。ポイントは、左上白の勢力をどう考えるかです。

 【1図】 黒1の詰めは第一級の大場です。しかし白2と打ち込まれると、左上の白が強力なため、黒の方が弱い立場となっています。黒は3から5、7と飛び出して行くよりないのですが、白8までとなると、上辺の黒模様もしぼんでしまいました。
 左辺の黒一団は依然として弱く、これは黒の失敗図。「大場より急場」という格言がありますが、本図はまさに急場を逃した典型例と言えるでしょう。

 【2図】 白からの打ち込みに備えた黒1の飛びは、石の方向としては間違っていません。しかし将来、白からAと打ち込む余地が残っているのがマイナス点。左上の白は強いので、黒1と飛んでも響かないのです。

 【3図】 左辺に打ち込みの余地を残さず、黒1とケイマで守るのが正解です。黒は上辺でもうけたのですから、左辺では謙虚に――。このバランス感覚が、石の強弱に対する判断力なのです。

●メモ● 2図の補足。黒1でB、白C、黒Dと競っていくことも考えられ、「互先なら、これが正解かもしれません」と金八段。ただし白Aと打ち込まれる余地が残るのがやはり気がかりで、「3子局ならば、3図の黒1と後腐れなく守るのが正解でしょう」。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】