上達の指南

小林光一「名誉棋聖への道」

(1)趙治勲を下し新棋聖に

(寄稿連載 2012/02/07読売新聞掲載)

 棋聖戦は35年を超える歴史を刻んでいるが、名誉棋聖資格者は6連覇の藤沢秀行、8連覇の小林光一の2人しか出ていない。ともに偉大な記録であり、棋聖戦史上にさん然と輝く。小林は今年9月、60歳となり、名誉棋聖を名乗る。
 小林に連覇のポイントとなった局を選んでもらい、不滅の足跡を振り返ることにする。
 第10期の七番勝負の直前、趙が交通事故で3か月の重傷を負った。打つことを決意した趙は、車いすに乗り、あちこちにギプスをつけたまま盤に向かった。2勝2敗で迎えた山場の第5局から、趙はたたみにあぐらで座れるまで回復した。

 【局面図】 ▲の打ち込みは趙らしい一着。小林は対応に苦慮した。

 【変化図1】 白1は、黒2から6となり、黒は眼形ができて安定する。白が苦しい。

 【変化図2】 白1は、黒2から10と飛ばれて攻め切れない。

 【実戦図】 白1とはすさまじい。白7まで、黒の渡りを拒否した。地合いは黒が有利だが、黒には弱石が二つあり、もつれている。小林は「やれると思っていた」。
 小林はこの第5局、続く第6局と連勝し、4勝2敗で新棋聖となった。小林は「気力で盤に向かわれた趙さんに対して、人間として、また棋士として深い感動を覚えると同時に、これまで以上に尊敬するようになりました」と語っている。(敬称略)
(赤松正弘)

●メモ● 第10期棋聖戦の挑戦者決定戦で加藤正夫九段を破って七番勝負に初めて登場した小林は、その4年前には林海峰九段に、前年には武宮正樹九段に決定戦で敗れていたから、まさに三度目の正直であった。交通事故で重傷の趙棋聖に、小林はいす対局を申し出た。

第10期棋聖戦七番勝負第5局
黒 棋聖 趙治勲
白 名人 小林光一
186手完 白中押し勝ち

【局面図】
【変化図1】
【変化図2】
【実戦図】