上達の指南
(3)「宇宙流」を制して連覇
(寄稿連載 2012/02/21読売新聞掲載) 武宮の棋風は「宇宙流」とも呼ばれ、大模様の構築に他の追随を許さない、独特の感覚と才能を発揮する。中央がまとまると大きいのだが、プロは大模様を軽視する傾向がある。小林は「模様が大きくならないうちに消しに行くことにしている」という。本局でも、早々と下辺に打ち込み、右下隅に少なからぬ地を持って生きた。
【局面図】 中央で▲と鋭いツケを放ったところ。白が有望な形勢だが、右上隅がまだはっきりとは生きておらず、小林は応手に悩まされた。
【変化図1】 白1と普通に受けると、黒2の当てから白13までは黒の絶対の権利。それから黒14と曲げる。白15のコスミなら、黒16と眼を取り、白17、19に黒20とこすんで、白が死にそうだ。
【変化図2】 変化図1の白15で白1と手を入れて生きるなら、黒2のノゾキが厳しい。白3に黒4から8で白4子をシチョウに取られ、それまでとなる。
【実戦図】 白1のコスミツケが頑強な抵抗で、「勝着になった」と小林。黒14から白19までと進み、この後、中央で際どい攻め合いになったが、白が1手勝ちの形だった。
武宮はほとんどいいところなく、敗れ去った。気を使って集中力を欠いたせいもあるが、小林の棋風と波長が合わなかったのが最大の原因だろう。4勝1敗で小林2連覇。(敬称略)
(赤松正弘)
●メモ● 第11期棋聖戦までの小林と武宮の対戦成績は、小林の18勝15敗。昨年末まででは、小林の40勝33敗。同じ木谷門下ながら、実利志向の小林と中央重視の武宮は、棋風も性格的にも相性がよくない。この時期、2人に加藤正夫と趙治勲を加えて「4強時代」といわれた。
第11期棋聖戦第3局
黒 本因坊 武宮正樹
白 棋聖 小林光一
156手完 白中押し勝ち