上達の指南
(2)会心のケイマで勝利
(寄稿連載 2012/02/14読売新聞掲載) 第11期は武宮正樹が挑戦者に名乗りを上げた。第9期に次いで2度目の挑戦であった。第9期での武宮は趙治勲に3勝4敗で敗れている。
このシリーズでは色々なことがあった。小林は対局中、記録係から棋譜と時間表を借りて確認するくせがあった。これに武宮が「棋譜を見ないでほしい」と申し入れたのである。この行為は、対局規定では違反とはされていない。
挑戦者が武宮に決まったとき、林海峰は「武宮さんは少し感情的になりすぎるのではないか。闘志を燃やすのはいいが、いざというときには冷静にならないと……」と苦言を呈した。
【局面図】 △と黒1子を抱えたところで、黒が少し打ちやすい形勢という。ここでは、まず黒イの飛びなどが目につく。
【変化図1】 黒イには、白は1の押しを惜しまず決める。黒2、4のハネ伸びは仕方がない。それから、白5、7のツケ切りなどと策動してくるかもしれない。これは黒も気持ちが悪い。
【変化図2】 黒イではなく、1のコスミなら堅い。これで右辺は確定地になるが、守りに偏っている嫌いがあり、白2から6とくつろがれるだろう。
【実戦図】 小林は黒1とけいました。下辺の黒模様を盛り上げながら、白の一団を遠くにらんで絶好点。「会心の一手だった」と小林。黒13の後、黒は下辺から中央に大きな地をまとめ、勝利を決定づけた。(敬称略)
(赤松正弘)
●メモ● 第11期棋聖戦の第1局は、史上初めてのアメリカ対局となり、ロサンゼルスで行われた。後日、小林は「スペースシャトルで宇宙開発に打ち込むアメリカと、宇宙流の武宮さんとが相まって、まさに天の時、所、人を得た最高の舞台でした」と語っている。
第11期棋聖戦第2局
黒 棋聖 小林光一
白 本因坊 武宮正樹
165手完 黒中押し勝ち