上達の指南
(1)先行逃げ切りで4連覇
(寄稿連載 2012/05/08読売新聞掲載) 第13期の挑戦者は武宮。武宮の棋聖位への挑戦は、第9期の趙治勲、第11期の小林に続いて3度目。過去2回はいずれも敗れている。ここまで小林の2勝1敗。
【局面図】 △のツケに対し、▲と伸びたところ。これをイなら、白は切り違えて、また、黒ロでも白ははね上げてさばきを期すことになるだろう。
【変化図1】 白1のハイには黒2とはねる。白7まで、実利を稼いで悪いとはいえないが、白1子は捨てたくない気もする。
【実戦図】 そこで、白1のコスミが意表をついて、小林自慢の一手だった。黒2と押さえさせてから、白3とはった。
【変化図2】 実戦図の黒4で1のハネには、白2とはねる。黒5に白6とつぎ、黒7以下、11まで勢いの変化になるが、白12とケイマして「白よし」と小林はいう。
実戦図の白13まで先手で生きて、15と隅を固めた。白イとつける狙いもうるさく、白十分のさばきになった。
武宮は日本囲碁界でも三本の指に入る美しい碁を打つ。常におっとりと構え、本手を打ってあせらない。一方の小林は、先行逃げ切りが身上だ。この持ち味はだれが相手でも変わらない。武宮の三度目の正直は成らなかった。棋聖位とはよほど縁がなかったとしか、言いようがない。
小林、4勝1敗で4連覇。
(敬称略)
(赤松正弘)
●メモ● 第13期のシリーズ前の予想座談会で、石田芳夫は「武宮君は海外対局で勝ったことがないんです。今回も負けるつもり」と、興味深い楽屋話を披露した。武宮はニューヨークでの第1局で白番中押し勝ちしたが、その後は4連敗といいところがなかった。
第13期棋聖戦七番勝負第4局
(1989年)
黒 本因坊 武宮正樹
白 棋聖 小林光一
236手完 白6目半勝ち