上達の指南

小林光一「名誉棋聖への道」その二

(2)大長考の末 信念の一手

(寄稿連載 2012/05/15読売新聞掲載)

 第14期の挑戦者は大竹英雄で、5年連続の同門対決となった。大竹は第5期で藤沢秀行に0勝4敗と完敗して以来、2度目の登場であった。この時までの2人の対戦成績は小林の18勝12敗で、現在までの総合では、小林が52勝27敗と大きく勝ち越している。ここまで1勝1敗。

 【局面図】 △と詰めて黒3子をおびやかそうとした。この手はイと備えれば本手だが、そんな悠長な局面ではない。

 【変化図1】 局面図の白イなら、黒1と打つ。白2の下がりに黒3から7で足が早い。大竹はこれを不満と見た。

 【実戦図】 小林は1時間16分の大長考の末、黒1と急所に迫った。そして、「乾坤一擲(けんこんいってき)の手だったんです」と振り返った。「どちらが強くなるかの瀬戸際なんです。今でもここへ打ちますよ」とつけ加えた。白4のコスミでAとケイマに出るとどうなるか――。

 【変化図2】 黒2のツケコシはこの一手。黒8までは一本道。白9の出から13と切り、黒14のツケから16とこすむ。この後もまだまだ難解な戦いが続きそうだが、大竹は自信がなかったのかもしれない。

 実戦図に戻り、黒5の一間飛びに白6と受けさせて、封鎖が先手になったのが大きい。黒7も気分がいい。黒9、11から13とこすんで、黒がリード。
 小林は「信念の一手」で勝利を引き寄せた。
(敬称略)
(赤松正弘)

●メモ● 小林と大竹は七番勝負を4度戦っている。この第14期棋聖戦と、第15、17、18期名人戦である。いずれも小林が挑戦を受ける立場だったが、4-1、4-2、4-3、4-1で小林が兄弟子を退けた。大竹としては戦いにくい弟弟子だったのだろうか。

第14期棋聖戦七番勝負第3局
(1990年)
黒 棋聖 小林光一
白 九段 大竹英雄
143手完 黒中押し勝ち

【局面図】
【変化図1】
【変化図2】
【実戦図】