上達の指南

小林光一「名誉棋聖への道」その二

(3)5連覇で2人目の称号

(寄稿連載 2012/05/22読売新聞掲載)

 ここまで、小林が3勝1敗と大竹をかど番に追い詰めていた。とくに大竹は一時は有望と思われていた第4局を落としたのが尾を引いたのか、本局では「リズムを狂わせたか」とささやかれたりした。

 【局面図】 ▲のノゾキに対し、△と曲げたところ。白は黒のノゾキをあわよくば持ち込みにさせようという激しい一着だが、当然、危険もはらんでいる。白模様を大切にして、白イのツケなら穏やかだった。

 【変化図1】 ここで黒1と切るのはいけない。白2のケイマに黒3の飛びなら、白4と飛ばれて、苦しいのを通り越して危ない。こういうところは、切らずにつがせるように打つのが得策とされる。

 【実戦図】 黒1のカケがぴったりだった。

 【変化図2】 白1とはうのは黒2と伸びられ、白3なら黒4と二間に飛ばれる。黒Aの切りとBのコスミツケを見合いにされ、白は攻めあぐねそうだ。

 実戦図の進行は、白2のツギと戻らされた。これなら、ノゾキに白Aとつけて我慢すべきだった。
 黒3にも白4と受けさせられ、5に回られた。白8、10には黒11から13と大きく居直り、黒は十分な戦果をあげた。手厚く打ち進める棋風の大竹は、小林に先行されがちだった。
 小林、4勝1敗で5連覇、名誉棋聖の資格を取得。
(敬称略)
(赤松正弘)

●メモ● 名誉棋聖の称号を獲得したのは藤沢秀行名誉棋聖以来2人目。その後は出ていない。小林は祝福を受けた後、「木谷(実)先生ご夫妻、梶原(武雄)先生ご夫妻をはじめ、大先輩、先輩の先生方の薫陶の賜物(たまもの)です」と感謝の弁。小林は今年9月から、名誉棋聖を名乗る。

第14期棋聖戦七番勝負第5局
(1990年)
黒 棋聖 小林光一
白 九段 大竹英雄
179手完 黒中押し勝ち

【局面図】
【変化図1】
【変化図2】
【実戦図】