上達の指南

小林光一「名誉棋聖への道」その三

(1)最終第7局に勝ち6連覇

(寄稿連載 2012/07/31読売新聞掲載)

 加藤は棋聖位の奪取に強い執念を燃やしていた。後に、「(日本棋院)理事長を早く辞めて棋聖を取りたい」と周囲にいっていたそうだ。棋聖を取ればグランドスラムを達成できる。「半目勝負に、加藤さんは一番強かったんじゃないかな」と小林は振り返る。半目勝負を制する時の計算の明るさには定評があった。

 【局面図】 △と出たところで、この白の大石がしのげるかどうかが焦点になっている。

 【実戦図】 小林は、黒1のグズミで取れているつもりだったが、これが敗着になった。16年前に亡くなった礼子夫人(六段)から「取れてたんじゃないの、と言われましてね」と苦笑いした。

 【変化図】 平凡に黒1の押さえが良かった。白4に黒5とつぎ、白6に黒7のグズミが好手。白8以下、黒15までは一本道で、白の大石を味よく取れていた。

 実戦図に戻り、小林は白32の切り込みを全く見ていなかった。「顔面がそう白になり、カッとしたのを覚えている」という。小林は白32は34と抜く一手と思い込んでいた。そこで黒35と切って白Aの生きを強要し、黒B、白C以下、黒Fで下辺の大石を仕留めるというのが読み筋だったのだ。
 黒35と後手を引かされ、白36のツケコシに回って白が良くなった。この後は黒に勝ちはない、という。
 壮絶な半目勝負であった。小林は最終第7局に勝ち、4勝3敗で6連覇。
(敬称略)
(赤松正弘)

●メモ● 第15期七番勝負の前年、小林は棋聖戦に続き、本因坊戦、碁聖戦、名人戦、天元戦と5度も挑戦手合を戦ったが、調子は下降気味と言われていた。加藤の挑戦をはねのけ、6連覇を果たして藤沢秀行に並んだ小林は「勝てたのはただただ幸運そのもの」と感慨ひとしおだった。
写真=美女に囲まれてご満悦な小林(右)と加藤。第15期の前夜祭での一コマ。

第15期棋聖戦七番勝負第6局
(1991年)
白 九段 加藤正夫
黒 棋聖 小林光一
271手完 白半目勝ち

【局面図】
【実戦図】
【変化図】