上達の指南
(2)絶妙の曲がりで7連覇
(寄稿連載 2012/08/07読売新聞掲載) 第16期の挑戦者に名乗りをあげたのは山城宏。棋聖戦史上、中部総本部からは初めての登場であった。ここまでの二人の対戦成績は小林の13勝9敗、今年7月末で小林の19勝14敗である。3勝3敗で迎えた最終第7局は、小林が8連覇の中で三本の指に数える名局になった。
【局面図】 山城が▲とかけついで、左下の白に圧力をかけた。この白は簡単には生きられない。もちろん、死ねばここで終わってしまう。
【変化図1】 平凡に白1の飛びでは、黒2から4と打たれ、6と中手にされて味よく無条件の死となる。
【実戦図】 23分の苦慮の末、小林は白1の曲がりという絶妙手をひねり出した。これが山城の意表をついた。
【変化図2】 黒1と中へつけると、白2以下、ほぼ絶対の手順で、黒17まで白2子が落ちる。白Aと抜くコウがややこしいが、黒は15目近い大きな寄せと見ればいいという。山城がこの手段をはっきり読んでいたかどうか――。
実戦図に戻り、白11となって、ほぼ互角の形勢という。この後、山城が頑張って優勢としたが、終盤、2目ほど損をし、好局を失った。小林は「(左下の)白に生きがあったのは運があった」と振り返っている。小林、4勝3敗で7連覇。
結果が逆なら、山城個人のみならず、中部囲碁界の歴史も大きく変わっていたであろう。
(敬称略)
(赤松正弘)
●メモ● 「死ぬ気で頑張る」と臨んだ最終第7局をものにし、7連覇を成し遂げた小林は、挑戦者の山城宏について、興味深い分析と言葉を残している。「山城さんは、石の変化を数字に表して計算できる数少ない強い棋士だと思った。これまで、碁界の評価が低かったのではないだろうか」
写真=第16期棋聖戦第7局 山城(左)の先番で勝負は始まった。
第16期棋聖戦七番勝負第7局
(1992年)
白 棋聖 小林光一
黒 九段 山城宏
244手完 白半目勝ち