上達の指南

小松英樹九段の「模様を楽しもう」

(1)単純な手が急所になる

(寄稿連載 2017/09/19読売新聞掲載)

 中央志向の模様の碁では、複雑な手順や深い読みより、分かりやすい基本的な手法が役に立つ場合が多いものです。誰にでも打てるような単純な手でも、優勢を築く急所になることもありますから、ここに打ちたいと思った第一感を大切にして、きれいな碁を打ちましょう。

 【テーマ図】黒番です。下辺の黒模様を大切にしていれば、のびのびとした碁が打てるでしょう。次の一手は、トッププロでも初心者の方でも、パッと思いつくのは同じところなのではないでしょうか。第一感の明快な一手はどこでしょう。

 【1図】下辺の黒模様を広げるには黒1の飛びが逃せぬ急所です。「一間トビに悪手なし」とはよく言ったものです。誰が打ってもこの一手に文句はつけられないでしょう。白2のコスミツケから4と左辺に開くくらいですが、黒5とボウシして模様をどんどん広げるのがいい手になります。スケールの大きな楽しい碁になりそうです。黒1の飛びは簡単な手ですが、模様に命を吹き込む好手なのです。

 【2図】下辺を放っておくと、白1の打ち込みが厳しくなります。黒2と断点を補うくらいですから、白3とこちらにも打ち込んで、楽に荒らすことができるのです。白7まで渡られては大切な黒模様がガラガラで、逆に白地になってしまいました。

 【3図】黒1と飛んでおけば、白2、4の打ち込みは怖くありません。黒5と下がって遮れば、左右の白はさばく余裕がありません。

●メモ● 小松英樹九段は、愛知県出身。1967年、3月4日生まれ。81年入段、95年九段。94年にNECカップ優勝。棋聖、名人、本因坊リーグ入りなど各棋戦で活躍している。テレビや紙面などで明快な解説で人気。手厚い碁で碁盤全体を使った堂々とした棋風。英子四段は夫人、大樹二段は息子。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】