上達の指南

孔令文六段の「定石の運用法」

(1)ツケノビも時によりけり

(寄稿連載 2007/06/18読売新聞掲載)

 定石は知っていると大変便利で、大切なものです。しかし、局面にマッチした活用をしないと、逆の結果が出ることがあります。こうなると、定石の効用ならぬ定石の弊害となります。
 今週から、正しい定石の運用、工夫について学んでいただきます。

 【テーマ図】 四子の置き碁で白1以下9と四隅にかかったところです。ここで黒は10とつけました。
 置き碁におけるツケノビは、形が早く決まる定石として多用されていますが、この局面では、黒10のツケは正しくありません。

 【1図】 黒1に、白は2のハネから4とつけ、黒5の割り込み以下白12のノビまでは、皆さんよくご存じの定石です。
 ところが、すでに右辺に△が待っているので黒は13までしか開けず、これでは不十分です。

 【2図】 1図の手順中、黒5では、黒1と押さえる方が勝ります。しかし白2、黒3のとき白A、黒Bなら常識的ですが、白Aと開かず、やや強引に白4と迫られると、置き碁では黒が困るかも知れません。

 【3図】 そこで白のかかりには、黒1のハサミが一策で、白2の両がかりに、今度は黒3、5のツケノビが有効です。仮に白が6とつけてくれば、黒7、9の割りつぎから15のカケツギまで、△を凝り形にして、黒満足の分かれです。また、黒1は2に受けていてもよいでしょう。

 【4図】 最後に、周囲の状況を変えてみますと、右辺に白石がない局面では、黒1、3のツケノビ定石が生きてきます。白4のツケには、1図と同じく黒5以下11の押しを決めます。今度は黒13の開きが右下と右上を連係させる一石二鳥の一手になります。
 同じツケノビでも、このように全く逆の結果が出ることになるのです。

●メモ● 孔六段は1981年9月、中国・北京市生まれ。25歳。菊池康郎氏に師事。98年入段、2007年六段。一昨年、昨年ともに20勝10敗。昨年は10連勝を記録し連勝部門第5位。小林覚九段は岳父。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】
【4図】