上達の指南

孔令文六段の「定石の運用法」

(4)局面に応じた工夫が大切

(寄稿連載 2007/07/09読売新聞掲載)

 私たちプロも定石を知っていると便利です。ただし、局面の配石との関係で、少しでも組み合わせを間違えると、一気に碁が遅れて取り返しがつかないことになります。従って、プロの場合は定石を打つというよりも、その局面において最善手を求めていくうちに、結果的に定石を打った、ということになるのです。
 最終回は、私の実戦から定石の工夫を紹介します。

 【テーマ図】 松本武久六段との一局で、私の黒番です。白8のカカリに黒9とハサんだとき、白10のカカリはやや無理気味でした。
 黒はどのように対応するかが、テーマです。

 【1図】 まず常識的に考えられるのは、黒1のコスミツケから3で、7の飛びとなりそうです。黒1、3は白Aの三々入りをけん制しており、準正解でしょう。ただし白4のヒラキに黒5、7が今ひとつの感じです。

 【2図】 もう一つ考えられるのは、黒1のハサミです。白は2と三々に入り、黒3以下白10の定石になります。続いて、黒11のコスミツケに白12と転じられ、これも今ひとつです。

 【3図】 そこで私の出した結論は、黒1から3のコスミでした。白4の開きに、黒5の押しがよかったようです。実は、日本棋院発行の週刊碁「これぞプロ!」の欄で、張栩碁聖がこの場面を採り上げてくれました。
 黒5に白Aのトビなら普通ですが、黒はBのノビが絶好です。

 【4図】 従って、松本さんは、白1とハネてきました。黒は2とノゾいて好調子だったのですが――。

 白3から5に黒6が無用の後退で、白7と打たれては折角の工夫も台無しでした。
 黒6でAなら断然黒よし、との張栩碁聖の指摘でしたが、まさにそのとおりでした。
(おわり)

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】
【4図】