上達の指南

倉橋正行九段の「中盤・勝負の岐路」

(1)競り合いと形勢判断の力

(寄稿連載 2005/06/20読売新聞掲載)

◆第17回世界囲碁選手権・富士通杯 最終予選 白・倉橋正行九段 黒・羽根直樹天元

 序盤、中盤、終盤と大別すると、特に中盤は力が要求されます。力と一口に言っても、競り合いの力だけでなく、その根底には形勢判断の力なども含まれてきます。優勢のうちに進んでいても、一瞬の気の緩みから逆転された経験はどなたにもあると思います。

 今日から4回にわたり、「中盤・勝負の岐路」というテーマで、ぼくの打ち碁を題材にお話しさせていただきます。少しでもお役に立てば幸いです。

 【テーマ図】 (1~22は実戦の81~102)黒1から右下の白模様を巡っての攻防です。黒17の様子見に対して白18の押さえは疑問でした。ここは白イとぐずみ、黒21に白22とツケるべきで、それなら白の勝ちだったかもしれません。白22の時が黒のチャンスです。

 【実戦図】 黒1と伸びられてしびれました。白2と受けるしかなく、見事なカウンターの利かしでした。黒3、白4のあと、黒5から戦いは左上に移りましたが、白の勝機はすでに去っているようです。
 右下隅には、黒A、白B、黒Cの手段が残っており、白Dのコウは白はやっていけません。

 【変化図】 実戦図の黒のノビに白1とかかえるのは、黒2のハネ出しから4とはわれます。白5から9までは一本道。黒10から白15までも必然です。この形は、黒Aと放り込むコウと、黒B、白C、黒Dの出切りがあって、白は支えきれません。実戦図の黒1には神経が通っています。

 羽根さんとの対戦成績は1勝4敗です。棋聖戦の七番勝負では、追い込まれても自分を見失わない、羽根さんの精神力に敬服しました。手どころはしっかりしているし、寄せは天下一品でしょう。

●メモ● 倉橋正行九段は1972年生まれ。32歳。関西棋院所属。86年入段、99年九段。正蔵八段は実父。母は初代本因坊の故関山利一九段の二女。関山利道九段はいとこ。

【テーマ図】
【実戦図】
【変化図】