上達の指南

倉橋正行九段の「中盤・勝負の岐路」

(3)安全を期す一手が裏目に

(寄稿連載 2005/07/04読売新聞掲載)

◆第14期竜王戦 本戦 白・王銘エン九段 黒・倉橋正行九段

 王先生の発想は大胆かつ独創的で、非常に勉強になります。その上、寄せも正確で、勝ちにくい相手です。対戦成績は4連敗と、まだ勝たせてもらえません。

 【テーマ図】 77手目、黒1の切りに、王先生は白2の出から4のハネと反発しました。白2で白6トビ、黒2ツギと比べて地は2目ぐらい得ですが、白は自分のダメを一つ詰めています。
 黒7の押さえから激しい戦いになり、白は22、24で黒3子を取りました。ここが勝負どころです。

 【実戦図】 ぼくは黒1とツケましたが、これがソッポでした。何か受けてもらえれば戦いの足しにはなると、甘い考えだったのです。白2の備えが絶好で、黒3と連打しましたが、白4の好点に先行されては、すでに黒負けのコースです。コミが負担の形勢です。

 【変化図】 対局の何日か後、秀行先生(藤沢名誉棋聖)から「何をやってるんだ。ツケる一手じゃないか」と指摘されました。ぼくの碁にまで目を通し、時には温かく時には厳しくご指導くださる、本当に尊敬できるありがたい先生です。ツケとはテーマ図のイでした。

 白2のツキアタリに黒3と引きます(白2を3のハサミツケは、黒2、白A、黒Bで白は抵抗できない)。白は4と逃げるしかなく、黒5と飛んで追いかけて白12まで連絡を強要してから、テーマ図のロのカドに回れば、黒がはっきり優勢でした。実戦図の黒1は安全を期したつもりだったのです。一瞬にして勝敗が入れ替わった碁でした。

 「これでいける」と思った時が一番危ないんですね。心しなければいけません。

●メモ● 倉橋九段は2年前から横田茂昭九段が中心となって開いている研究会に参加。メンバーは結城聡九段、坂井秀至七段、山田規三生八段などそうそうたる顔ぶれの10人。

【テーマ図】
【実戦図】
【変化図】