上達の指南
(1)あえて逃がして主導権
(寄稿連載 2018/11/14読売新聞掲載)相手の弱い石を見ると、すぐ取りに行きたくなるものです。その気持ちはよく分かります。
しかし、それも状況によります。弱い石をあえて逃がしてあげて、じっくり攻める方が得な場合もあるのです。相手は助けてくれるなら、ありがたく逃げて行くでしょうが、それがこちらの作戦なのです。この講座では、そんな高等戦術を勉強して行きましょう。
【テーマ図】右辺の白の一団がまだ治まっていません。とくに△四子は風前の灯火です。これを取るのは簡単ですが、果たして取ればいいものなのか。周囲の黒が堅いことも踏まえて考えてください。
【失敗図】黒1と切れば白四子は取れます。白2のアテから捨てるしかないでしょう。しかし、白4のオサエを利かして8と開けば、右辺は白のものになります。右下の黒は元々頑丈な壁でしたから、白四子を取ったのはヨセのようなものです。これでは失敗です。
【正解図】ここは全局的な主導権を握るチャンスでした。黒1と背後から迫って、白を大きく攻めるのが正しい態度です。白はよろこんで白2のコスミで白四子を助けるでしょうが、それは黒の作戦の内です。白4のコスミから6と飛んで逃げることはできますが、黒9まで追いかけるだけで、右上の黒模様が大きくなります。黒11と押さえて白一子の動きを封じれば、すでに勝勢でしょう。
取れる石をあえて逃がして、主導権を握る作戦でした。
●メモ● 三村智保九段は福岡県出身。1969年7月4日生まれ。三村芳織三段は夫人。82年少年少女大会で優勝し中学生名人。86年入段、2000年九段。1990年名人リーグ入り。2001年棋聖リーグ入り、6期連続在籍。03年NHK杯優勝。04年本因坊戦挑戦者決定戦進出。16年通算800勝達成。