上達の指南

三村智保九段の「取らない高等戦術」

(4)敵に塩 その後攻めに

(寄稿連載 2018/12/5読売新聞掲載)

 石を取るかそれとも助けてあげるか、それが問題です。勝負の世界で敵に塩を送るなんてなかなか考えられません。戦国時代の武将でもありませんから、取れる石は取ってしまいたい。目の前の敵を殺してしまいたいと思うのが人間の性でしょう。しかし、場合によっては、弱い相手は逃がしてあげて、じっくり攻める方が効果を上げることもあるのです。

 【テーマ図】△三子を取れば大きいのは確かでしょう。しかし、黒は隅を大きな地にしていて猛烈に強い石ですから、△三子を取っても地を増やしただけなのです。もっと大きな視野で作戦を立ててください。

 【失敗図】黒1とケイマに遮れば白三子は取れています。立派な地ではありますが、これでは失敗なのです。白2の押さえから4と開けば、上辺は白の勢力圏になります。これは白がうまく三子を捨てたと言えるでしょう。黒は敵の差し出した餌に引っ掛かってしまいました。

 【正解図】黒1と上辺から迫って、全体を攻めるのが正しいのです。白2と上に逃げれば、黒3と滑ります。白4と連絡すれば相手はよろこんでいるかもしれませんが、それがこちらの作戦です。黒7まで上辺を占領すれば黒の大成功です。

 取れる石もときには逃がしてあげた方が得な場合があるのです。弱い石を大きく攻めて主導権を握る、高等戦術を勉強してきました。この講座が、みなさんの上達のお役に立てたなら幸いです。
(おわり)

●メモ● AI(人工知能)の登場が棋士に衝撃を与えているが、自身は積極的に取り入れて日々の勉強に役立てている。「AIが自分で作り上げた棋譜を見ると、独創的な布石も多いが、人間が積み重ねてきた考え方とそうは違わない」と言う。AIの発展が人間の成長に貢献するだろうことは間違いない。

【テーマ図】
【失敗図】
【正解図】