上達の指南

三村智保九段の「取らない高等戦術」

(3)生かして全体を攻める

(寄稿連載 2018/11/28読売新聞掲載)

 自分の大模様の中に相手が飛び込んでくれば、なんとしても取ってしまいたい。そう思うのは当然でしょう。しかし、尻尾を取らされて、本体に暴れられたのではなんにもなりません。取れるものをあえて取らないで全体を攻める方が、勝ちに結びつく場合がありますから、よく状況を見極めてください。

 【テーマ図】下辺の黒模様の中で、白が弱くて瀕死(ひんし)の状態です。取れるものはさっさと取ってしまいたいと思うのが実戦心理でしょう。△四子を取るのは簡単ですが、それでいいのかどうか。主導権を握るには、もっと賢い方法があるのです。

 【失敗図】黒1とコスめば、隅の白四子は動けません。取れば大きいのは分かりますが、じつは失敗なのです。白2と開かれると、下辺で堂々と所帯を持たれます。黒3と詰めても厳しい攻めにはなりません。白4のコスミを利かして6と飛べば、黒模様の真ん中で大威張りで生きられてしまいます。

 【正解図】隅の白四子には手を付けないで、黒1と背後から迫るのが正解です。白2で連絡されてしまいますが、生かしてあげる作戦なのです。黒3と外から迫れば、白4から6と手を入れる必要があります。相手は取られそうな石が助かってよろこんでいるかもしれませんが、じつは黒の思うつぼなのです。黒7と大模様を立体的に作り上げれば、黒の大成功です。

 取れる石を生かして、全体を攻める高等戦術でした。

●メモ● 三村九段は普及に熱心で、「市川こども囲碁道場」を主宰している。「子どもは年の近い仲間がいてこそ楽しく続けられる」と言う。子どもたちが知恵を絞ることで強くなることを実感して、大人にも自分なりの工夫を勧めている。「考えなしで打つだけでは、上達はおぼつかない」と説く。

【テーマ図】
【失敗図】
【正解図】