上達の指南
(3)トップ棋士の勝負根性
(寄稿連載 2016/10/04読売新聞掲載) 夢百合杯は中国の新しい国際戦。柯九段は中国のナンバーワンです。トップ棋士の勝負勘を味わって下さい。
【1図】左下の白24に感心です。この手では26と高く挟み、黒A、白28、黒B、白Cが定石。ただこの碁では白14の位置が広く、黒Dを狙われます。そこで黒29の押しを打たせて白30に石を持ってくる工夫をしたのです。
【2図】白50、52のハネツギは黒が簡単に生きる手を封じながら手を渡しました。これがうまい。続いて黒Aは白56、黒B、白C、黒54、白53、黒D、白Eです。すると黒Aが不急の一着となります。勢い黒53と頑張りましたが、黒57まで2子を捨てざるを得なくなったのはつらい結果でした。
【3図】黒71が非勢を意識した一着。勝負師らしい誘いの手でした。私には黒72、白74、黒71の手順しか浮かびませんが、それは白Aの好点に回られます。実戦は白72を誘い、あえて自分の石に傷をつくり、白76と切らせて局面を動かす作戦なのです。打ち過ぎの白88をとがめた黒89、91も鮮やかで、黒101まで見事に盛り返しました。
この後、黒優勢となりましたが、柯九段にまさかのミスが出て形勢不明に。こんなに強い人もミスをするのかと驚きましたが、本当に驚いたのはその後です。私なら動揺してたちまち負けるところですが、柯九段は気持ちを立て直して半目勝ち。勝負根性も一流。さすがです。
●メモ● 望月七段は攻めが好きで戦う棋風。「攻め続け、戦いが終わったら小寄せが残っているだけという碁が多い」と話す。「李世ドル九段も攻めの碁なので、好きでよく並べます。自分には気がつかない手が多く、いつも驚かされます」。この講座でも李九段の対局を題材として採用している。
第2回夢百合杯世界オープン戦
決勝五番勝負第5局
白 九段 李世ドル
黒 九段 柯 潔
(2016年1月)