上達の指南
(1)答えに至るプロセス大切
(寄稿連載 2018/08/22読売新聞掲載)石の構えや形の価値判断、構想力などは、詰碁や寄せのように、誰にでもわかるような解答が出にくい分野です。感覚に頼ることが多いだけに、鍛えるのも難しい。
私はこれらの分野の判断能力をセンサー(感知器)と呼びたいと思います。センサーに磨きをかけ、もうワンランク上の打ち手を目指しましょう。
【テーマ図】白△のヒラキは「二立三石」(石が二本立てば、三間に開ける)で、一般的な定石。しかし「定石だから」「決まっている」などの思いに縛られていませんか。
黒番です。最大のテーマは下辺ですが、その前に上辺の定石を考察しましょう。
【1図】白1を見てください。狭いと感じられるでしょう。
【2図】白がA~Fまで移動するイメージを描いてください。一路動くごとに、感じる評価が変わるはず。B、Cが適度。中でもBが一番手堅いのです。
【3図】さて本題です。左下は定石にはない形。センサーで適正なヒラキを探します。
知識に頼れば「黒▲が四立なので、五間に」と、黒1。ただ白2とされると、黒の構えが低く感じられるかもしれません。
【4図】一路上の黒1はどうでしょう。裾はあいていますが、▲とのバランスがよさそうです。高く構えたことによって、次に黒AやBと下辺を盛り上げていくのが良い手になります。
正解かどうかが問題ではありません。答えを導き出すプロセスを大切にしたいのです。
●メモ● 中野泰宏九段は1977年生まれ、福岡県出身。92年入段。2013年に産経プロ・アマトーナメントで優勝した。関西棋院の院生師範を務め、後進の育成にも尽力している。「院生は局地戦のレベルは高く、強い。でも石の形や強弱など、明確な答えのない部分の判断力が足りない。どう鍛えるかが課題です」