上達の指南
(4)薄さを利用 攻め誘う
(寄稿連載 2018/09/12読売新聞掲載)最終回は井山裕太棋聖(六冠)に一力遼八段が挑戦した今年の棋聖戦七番勝負第3局から。井山棋聖のセンサー力が光った象徴的な場面を紹介します。
【テーマ図】上半分は両者の不安定な石が入り組み、全体の力関係の判断が非常に難しい。黒番の一力八段が黒1とした場面。黒▲と白△の競り合いです。
【1図】白1、3となれば、黒▲を制し、左上の戦いは白が優位です。白にとって望外の展開で、黒は2とは受けません。
【2図】白1のオシには普通、黒2と応じます。白3と強化することで、白5まで足を伸ばせます。孤立した右の白△3子を活用しつつ、上辺黒の薄みを強調する急所の一手です。しかし白5を打つためとはいえ、黒4まで強くしたのは不満です。
【3図】実戦は単に白1と急所に迫りました。ひと目間隔が広く、分断が心配です。当然、黒2から6と切断し、大乱戦となりました。ただ白21までを見ると、中央の戦いに乗じ、白15、21で1図の形が実現しました。
第2、3回で触れた「強い石には近寄らない」は、逆に言えば「弱い石には攻撃」なのです。棋聖は白1の薄さを利用して攻めを誘いました。その裏には、黒2からの反撃にも支えきれるという力関係の正確なセンサーの働きがあったのでしょう。
石の強弱など答えの出にくい分野は、囲碁の6、7割を占め、伸び代が大きい。センサーを磨くことが、棋力の大幅アップへの近道です。(おわり)
●メモ● 一番の趣味は津軽三味線。始めて20年ほどで、忙しくなった今も月に1、2回は教室に通う。昨年の「ジャパン碁コングレス」では腕前を披露し、喝さいを浴びた。「音の強弱の付け方など感覚的な部分は碁と似ているところがあります」といい、何よりも「響きが魅力。弾いているだけで楽しい」。