上達の指南

中野泰宏九段の「囲碁センサーを磨く」

(3)常に変わる石の力関係

(寄稿連載 2018/09/05読売新聞掲載)

第1、2回と基本的なことを紹介しました。今回はそれらを応用して石の方向を考えます。

 【テーマ図】私の指導対局(2子局)から。白△と割り打ちした場面です。センサーを使って、この後の黒の打つ方向を考えていきましょう。

 【1図】実戦の進行を見て下さい。黒1から7(黒5は手抜きで左上隅のカカリ)まで、大きな判断ミスが2回あります。右上の黒が強い石というのは思い込み。白6までとなると右辺の力関係は逆転しています。

 【2図】続けて白1から17まで、結果的に右上の黒が全滅しました。白△がものすごく強いという特殊なケースを軽視したのが原因です。石の強さの変化で、周辺の環境も変わります。

 【3図】黒1は正しい方向。この手で黒Aは、幅が狭く感じられますよね。ただ白4まで白は眼形を持って安定し、辺の力関係が急接近しているのがポイントです。黒も▲を5と補強しつつ、右辺の白へ圧力をかけるのが急務でした。上辺の白石から離れた場所を占めるのが大事。上辺より右辺なのです。

 【4図】黒のもう一つの判断ミスは、1図の黒7です。切られることのないよう、黒1の一間トビでなくてはなりません。また黒AやBと強力な上辺の白に近寄って打つのも良くありません。実戦は切断され、黒は強い白の周辺を打たされました。

 石の力関係は相対的なもので、常に変化します。それによって、向かうべき方向も変わるのを感じてもらえましたか。

●メモ● 東京在住だった30歳の時、知人の紹介で合気道を始めた。碁に役立つことも多い。「合気道では勝敗に執着しない平常心が養えます」。普段は意識しない動きを求められてとまどうこともあるが、教えを受ける立場になって、「相手の理解度が判断できるようになった」と碁の指導にも生かしている。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】
【4図】