上達の指南

中野寛也九段の「打ちたい手を打とう」

(1)思い切った手で優勢に

(寄稿連載 2007/03/19読売新聞掲載)

 私は碁の面白さは、自由に好きな絵を盤上に描けるところにあると思います。物マネではなく、自分の中から湧(わ)いてくるイメージを表現できたとき、棋士としての喜びを感じます。
 今回から私の打ちたい手が打てた場面を紹介していきたいと思います。

 【テーマ図】 昨年、中国の若手、劉星七段とのLG杯予選です。この前年、三星杯で敗れているので、その借りを返したいと思い挑みました。私の黒番で、白34までの局面です。

 【1図】 黒1のノゾキから攻勢を掛けましたが、このとき打ちたい手がひらめいたのです。

 【2図】 実は、ここではそこまで激しくやらず、黒1と出れば自然で、黒地は結構大きいのです。白2の逃げに、イあたりに構えて白をにらむ展開でも十分やれたでしょう。しかし、このような運びで持久戦を目指すのも良い、とわかっていても打てないのが私の棋風です。

 【3図】 また、攻勢といえば、黒1のボウシも目につきますが、これは攻勢というよりは、穏やかな感じです。白は2から4のケイマで、楽にシノギ形になります。

 1図に戻り、黒1のノゾキに、白2のソイで単に4とつぐと、黒イのツケが強手で、白2に黒ロのハネで白は一気に窮地に陥ります。
 白2に、黒3、5を利かし、いよいよ本命の登場です。黒7とカドを突いたのが、私の打ちたかった手です。白ロなら、当然、黒9にはねます。
 白8に黒9のコスミで封鎖し、半分は取りかけの気分です。この後、先手で白を眼二つにいじめて優勢を確立、勝利を得ることができました。
 黒1から7までが最善かどうかは微妙ですが、自分なりに納得のいく一局でした。

●メモ● 中野九段は1969年6月、広島県生まれ。日本棋院中部総本部所属。95年第10期NECカップ俊英戦優勝、同年本因坊戦リーグ入り。王冠位2期、十段戦挑戦1回。96年土川賞受賞。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】