上達の指南

中野寛也九段の「打ちたい手を打とう」

(2)納得のいった布石構想

(寄稿連載 2007/03/26読売新聞掲載)

 私には「打ちたい手を打つ」がいつも念頭にあります。逆に言えば打たされるという状態は好きではないのです。しかし1局を作り上げるのは相手との共同作業でもあるわけですから、なかなか自分の思惑通りにはいかないものです。
 その中で常にあらゆる可能性を探していくのは楽しいことですし、そこから打ちたい手が生まれてくるのです。

 【テーマ図】 関西棋院の山田規喜九段との昨年の棋聖戦予選。私の黒番で、常識的な布石から、白22と締まったところです。これはやや地にこだわった手で、にわかに私の打ちたい発想が湧(わ)いてきました。

 【1図】 ここで黒は上辺を守るのが普通でしょうが、黒1と構えました。白は予想した通り白2の打ち込みで、黒3のケイマが、黒1と連携した1手です。白4に、黒5のケイマが絶好点で黒模様全体が立体化しました。

 これで黒優勢というわけではありませんが、一つの布石構想として自分なりに納得のいくものでした。
 黒1ではイの飛びくらいが普通の着想でしょう。すると白はロと側面からカカり、黒ハの締まりに白ニの開きとなります。これでも黒悪くはないですが、ちょっと面白さに欠けると思いました。

 【2図】 また白に打ち込まれた後、黒1とケイマし、白2に黒3と逃げていれば普通でしょう。白4、黒5、白6となりこれもよくある形ですが、右辺を構えた以上、この運びでは流れが今ひとつマッチしないと感じました。

 【3図】 さかのぼって、テーマ図の白22では、白1から5と展開しているのが大場で、この方が良かったのではと思います。こうなっていたら、私の打ちたい手の発想は別の思考になっていたはずです。

●メモ● 中野九段の趣味は読書とゴルフ。読書の分野は幅広い。歴史物で井沢元彦の「猿丸幻視行」、冒険物でルシアン・ネイハムの「シャドー81」、ミステリーでロバート・ゴダードの「蒼穹のかなたへ」などが印象に残っているという。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】