上達の指南

中野寛也九段の「打ちたい手を打とう」

(3)定石にこだわらない伸び

(寄稿連載 2007/04/02読売新聞掲載)

 常識にこだわらない手を打つ時には、周囲の配置や読みなどの裏付けが必要となります。まして定石の変化がある場合にそうするには、相当な慎重さを要します。次のような場面に遭遇しました。

 【テーマ図】 同じ中部総本部の中根直行八段との棋聖戦の予選で、私の黒番です。黒9の一間高バサミに白10とつけられた時、打ちたい発想が生まれました。

 【1図】 最も普通の手は黒1の押さえです。白2の切りに黒はいくつかの定石がありますが、仮に黒3と伸びれば白4のカケ以下白12まで。これは立派な定石ですが、私としては隅の白地が大きいと思ったのです。

 【2図】 黒1の伸びもあります。白2に黒3、5で厚い壁ができますが、白8の割り打ちが大きく、この分かれは黒がちょっと不満と見ました。

 【3図】 そこで思いついたのが黒1の伸びです。これは今まで見たこともなく、たぶん新手でしょう。これを打つには相当な読みの裏付けが必要であり、たしか40分以上考えたと思います。
 これに対し、白は2のハイが最善のようです。
 ここから思いがけない展開となり、実戦は黒走ったかたちとなりました。黒1の打ちたい手がこのような変化を生んだのです。黒4子は取られる展開となりますが、いろいろ利きがあり、この後の進行が楽しみになった一局でした。
 なお、黒3に白4の押しは絶対です。ここで黒5の地点にツギなら堅実ですが、黒は白4の地点からどんどん押しつけます。2図と似たようなことになりますが、こちらの方が1本余計にはわせるかたちになり、これなら黒やれます。

 【4図】黒1に白2とカケてくれば、黒3、5とやっていくつもりでした。白6に黒7の伸びから9と右辺の大場を占めれば十分です。

●メモ● 中野九段には15歳になる長女と9歳の長男がいる。棋力は2人とも中野九段に3子から4子のあたりで、長女は日本棋院の院生。研究会など一緒に参加していて、毎日3人で碁の勉強をしている。

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】
【4図】