上達の指南

中野寛也九段の「打ちたい手を打とう」

(4)大胆な手抜きで模様張る

(寄稿連載 2007/04/09読売新聞掲載)

 アマチュアの皆さんはプロと違って、勝敗に関係なくのびのび打てる特権があります。だからといって、すべて打ちたい手を打てる訳ではありませんよね。
 限られた局面で自分のカラーを出せれば満足のいく一局となるのではないでしょうか。ですから、ある程度の裏付けを得る努力は惜しまないで頂きたいと思います。

 【テーマ図】 中部総本部の松岡秀樹八段との本因坊戦予選で、私の黒番です。
 白の実利に対し黒の厚みの碁で、上辺星上、白62と急所にノゾかれたところです。ここで、打ちたい手の発想が生まれました。

 【1図】 普通、このノゾキに対しては、黒1と下がり、白2に黒3と打つものでしょう。
 黒は先手で切り上げたものの、全体が重くなり責任を持たされることになります。その結果、思い切った策は採れず、黒イに一手要りそうです。

 【2図】 ノゾキに手を抜いて、黒1と下辺に展開したのが私の打ちたい手でした。黒9まで実戦の進行です。
 通常、この形の手抜きは白4にハネられてはよくないものですが、あくまでも上辺の一団は軽く見ました。ハネに再び手を抜いて、黒5から7と模様を張る作戦です。

 白8には黒9と軽く臨み、白の出方によっては上辺の一団は捨てるつもりです。

 【3図】 2図の黒9に続いて、白1、3と取りに来れば思うツボで、黒2、4以下上辺の数子は捨ててよいのです。黒10のツギまで、下辺一帯の模様がますます強化され、黒の理想的なことになります。

 以上、4回にわたって私の「打ちたい手」にお付き合い頂き、ありがとうございました。少しでも皆さんの棋力向上のお役に立てたら幸いです。
(おわり)

【テーマ図】
【1図】
【2図】
【3図】