上達の指南

中野寛也九段の「打つ前にひと呼吸」

(1)相手の石を分断し主導権

(寄稿連載 2014/08/26読売新聞掲載)

 強くなりたいという気持ちはプロもアマも同じです。勉強するしか解決策はありませんが、勉強したことがすぐに上達に結びつくとは限りません。定石を覚え、よい形を身につけ、戦う勇気を奮い起こしたとしても、時と場合をわきまえないと、せっかくの技術も役に立ちません。むしろ逆効果になることもありますからやっかいです。
 そんな悩みをお持ちの方に、大事なことをお伝えしたいと思います。それは、打つ前に立ち止まってひと呼吸し、数手先を考えることです。碁を打つときの心構えとして覚えてほしいことです。

 【テーマ図】 黒1と迫られた場面です。白2と挟んだのは好点です。黒3と飛んで中に出て来るのも当然でしょう。ここで、白はどういう考え方をすればいいでしょうか。少しだけ、先の図を頭に浮かべてください。

 【1図】 ▲に石が来たので、隅の白2子が弱くなったと思えば、早く生きてしまいたい衝動に駆られるかもしれません。白1のコスミツケから3と手を入れれば、地を持って生きることができます。しかし、これは消極的でお勧めできません。黒4と中を止められると、黒が手厚い好形になります。

 【2図】 白1と飛んで中に出て行くのが大切です。上下の黒を分断して、左辺の黒を安心させないのが主導権を握ることにつながります。黒模様が広がる可能性も消し、白Aの打ち込みも狙えます。

●メモ● 中野九段は広島県出身。1969年6月3日生まれ。85年入段、97年九段。95年、本因坊リーグ入り、NEC俊英トーナメント優勝。2000年十段戦挑戦者。10年、竜星戦準優勝、通算700勝達成。日本棋院中部総本部所属。安定した成績を続ける中部を代表する棋士の一人。

【テーマ図】
【1図】
【2図】